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1927年、若きドイツ人物理学者のハイゼンベルクは、量子力学の根幹をなす「不確定性原理」の考え方を初めて世に送り出した。すなわち、因果律に従い完璧に予測されるものだと考えられていた世界が、偶然と確率と可能性に支配された不正確なものに代わってしまったのである。これはあまりにも革新的な概念だった。当時すでに著名な科学者であったアインシュタインはこの原理を認めようとせず、また、ハイゼンベルクとその師ボーアとの間にも確執が生まれた。科学界だけではなく、文学や哲学にも大きな波紋をよんだ。だが、量子論と不確定性の考え方は、ある日突然現れたものではない。浮遊した微粒子がランダムに動くブラウン運動など、19世紀には不規則で統計的な現象の存在が明らかになっていた。また、第一次大戦後、敗戦国の屈辱を味わっていたドイツには、科学者の間にも決定論的な運命を認めたくないという向きが強まっていた。あとはただ一人の若き秀才の登場を待つのみだったのである。世界を揺さぶった不確定性の概念と、それをめぐる著名な科学者たちの人間ドラマとをみごとに描き出した、渾身の科学ノンフィクション。
目次 :過敏な粒子たち;エントロピーは極大を目指す;不可解な現象―大いなる驚異の対象;電子はどのように決断するのか;前代未聞の大胆さ;知らないほうがうまくやれるという保証はない;楽しいわけがあるものか;靴屋になったほうがまし;考えられないことが起こった;かつての体系の精神;決定論を放棄したい;ぴったりの言葉がない;ボーアの恐るべき呪文のような用語の繰り返し;もう勝負はついた;科学的経験ではなく人生の経験を;まぎれのない解釈の可能性;論理学と物理学との境界領域;ついに無秩序に
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